Integrityと資本配分と高ROCからの再投資

先日のBerkshire Hathaway Inc. Annual Shareholder Meeting出席に関してもう少し話を続ける。著者はOmahaへの渡航時には Value Investor Conference (VIC) 及び併催されるSummitに出席している。昨年はPhilanthropy Summit, 今年はCorporate Values Summitが開催された。VIC本会議が投資手法や経済環境そのものについて議論することが多いのに対して、Summitは投資における価値観 (values) を議論する。技術者の人たちには価値観を議論するカンファレンスというのは馴染みが薄いかもしれない。しかし実は技術よりも価値観と哲学こそが不確実性の高い時代を生きていくにあたって最も大事なものだと、著者は自信を持って伝えたい。本稿では価値観が投資基準にどう影響し、そしてビジネス上の意思決定にどうつながるのかについて議題を提供したい。

Robert P. Milesへの感謝

VICに加えて、2017年の著者はGenius of Warren Buffett  (GOB)というバリュー投資家のためのExecutive MBAのクラスに出席した。VIC, GOB共にインストラクターの Bob Miles (Robert P. Miles) が作り上げてきたプログラムである。

彼と話していると、そしてプログラムに出席していると、Bobのintegrityの高さが伝わってくる。WarrenやCharlieのvaluesがそのまま彼にも共有されていることがよくわかる。VICやGOBの講師はBobによって本当に注意深く選定されており、講演者と受講者のいずれからも信頼されている。米国では彼は著名人なので宣伝目的で近づいてくるファンドマネジャーが大量にいるのだが、彼はそういった人々を避け、正しい価値観の元で投資が続けられるように受講生や出席者を助けてくれる。

Bobは作家として認知されていて、彼の著者の一部は日本語にも翻訳されている。The Warren Buffett CEOの邦訳を紹介しておくが、Warren Buffet Wealthもお勧めである。

最高経営責任者バフェット~あなたも「世界最高のボス」になれる (ウィザードブックシリーズ)

Warren Buffett Wealth: Principles and Practical Methods Used by the World’s Greatest Investor

著者はGOBコースの日本人修了生第1号だそうであるが、第2号以降が読者の中から現れることを願っている。たった3日間の受講で、日本の国立大学授業料の半年分くらいの費用がかかってしまうのだが、この講座で身につけた倫理観と規律はこの後の人生においてずっとあなたを助けてくれると思う。リターンを追求する投資だけではなく、投資による資本配分がリアルのビジネスにどう影響するのか、なぜintegrityがmatterするのかがよく分かるのだ。

ここではGOBおよびVICに来てくれた講演者の中で特に印象的だった2人をピックアップしたい。1人目はNebraska Furniture Mart (NFM)の前CEOであるBob Battである。2人目はInvesting Between the Linesを出版したL.J. Rittenhouseである。彼ら以外にもWarrenの長女であるSusie BuffettやNational Indemnity Company (Berkshire傘下で大変な利益をあげている保険会社である)のCEOであるDonald F. Wursterといった豪華スピーカーと身近に話すことができて大変貴重な時間であった。

Integrityと再投資との関係

Bob Battは慎重さとリテール・ビジネスにおけるあらゆる知見、そして何より次世代に対する思いやりを持った、尊敬できる老人の代表みたいな人である。バフェットの専門をCapital AllocationからRetail Businessに変えると全てそのまま彼になるかのようだった。彼はcandorのある人物で、オンラインのe-コマースや消費にお金を使わないミレニアル世代など、自分たちのビジネスに現在吹いている逆風についても率直に語った。NFMはMrs. Bとして知られるRose Blumkinが創業した。Bobは彼の家系がMinsk (今はベラルーシ、当時はロシア)からどうアメリカに渡って来たのか話してくれた。

NFMは巨大な一店舗にあらゆる家具とアプライアンスが置いてあるblock and mortal storeである。実際のところAshley (たまたまであるが著者の自宅の近所に日本支店があって知っている) など質の高い家具がかなり安く買えるので、インテリア好きの人はアメリカ中西部に行くチャンスがあったらぜひ訪問してみることをお勧めする。Bob自身はNFMからは引退して今は子供たちを助ける慈善事業に全力を注いでいる。リテール・ビジネスにおけるインサイトは慈善事業の経営や政府の運営など公益の追及にもとても役立つそうだ。

NFMや同じくBerkshire傘下で宝飾品の販売を手がけているBorsheimsなどは、他のリテールビジネスとは異なった性質を持っている。店舗数がものすごく少なくて基本的にはsingle-storeで全てを提供するのだ(注: NFMは全米で4つしか店舗がなく、そのいずれも巨大である)。多くのbrick & mortal retail businessでは、小さな店舗をたくさん建設するfranchiseの形式を取る。NFMやBorsheimsは逆である。しかし、たった1店舗にものすごい在庫があってなかなか買い物が楽しく、しかも価格も競合より安い。日本で言うと、東急ハンズが定価販売ではなく量販店と同じ値段で売っているようなイメージだろうか。

このsingle-store policyはWarren Buffettの注意深いcapital allocation能力によってもたらされたものである。彼は合計売上高を増やすのではなく利益率を増やすことを傘下企業に強く求めるそうだ。もし店舗数の増大がコストの増大か顧客の低価格志向によるマージン低下につながるようであれば、Warrenは傘下CEOたちにむしろビジネスの拡大を避けさせるのである。

NFMでは比較的安いNebraska州での流通コストや人件費を武器に低コスト優位性を維持している。販売価格も安いがコストがそれよりさらに安く高い利益率が維持される。他者がこれを真似ようとしても同レベルの低コストが実現できないので、高価格販売して顧客からそっぽを向かれるか無理して値下げして破綻するかのいずれかになる(日本の量販店は後者の道に向かっている印象がある)。Bobは”We are conservative.”と率直に語っていた。政治の世界でのconservativeは色々議論があるが、このビジネスに関するconservativeは著者には心地よく聞こえた。低コストを武器にするのはAmazonのe-Commerce部門も同様だろう。自称高付加価値ビジネスは競合が参入するとあっさりと値下げの妥協を強いられるが、流通網の強さによる低コスト優位性は競合が真似できないのである。Amazonの場合は直近の利益率を犠牲にして世界中で低コスト状態を実現するべく拡大を続けているが、NFMは高利益率を維持する代わりにNebraskaから外に出ないのである。そして全米中から消費者をOmahaに連れてくる

Growthとかbig businessといった言葉に踊らされている人にはNFMのpolicyは奇妙に映るかもしれない。しかし資本の効率性を最大化する観点からはこのアプローチが正しいのであり、しかもこのやり方だと雇用を最大限守ることができる。どういうことだろうか。

Buffettは複数のビジネス領域に極めて通じた投資家である。彼は同じ1ドルを追加投資するならどこに投じたら良いのかが的確にわかる。NFMやBorsheimsの店舗をどこかの州にもう一つ作るのと、それとも傘下の保険会社の拡大に当てるのと、リターンがどちらが大きいのか判断できるのである。彼はdiminishing returnによって利益率がさちってしまったビジネス領域にお金を放り込む愚を犯さない。そしてNFMは店舗を増やさずとも、Omahaにとどまっている限り儲けた利益を翌年の運営のために再投資して、高い利益率を保ったまま安定的に売上も拡大することができる

テストステロンに心を支配された愚かな経営者は店舗を増やせばビジネスが短期間で飛躍的に増大して利益もうなぎ登りかもしれないと楽観サイドだけを考え、短期間で急激な拡大を狙うが失敗して多額の負債を背負う。従業員も急拡大して大量に雇ったと思ったら急に大量に解雇する(人の人生をなんだと思っているのだ)。NFMのやり方だと、circle of competenceを守ることで持続的雇用を提供できる。もちろん絶対的な雇用人数が大きく増えるわけではないが、やっと仕事が見つかったと思って働き始めたら急に解雇されて今までの時間はなんだったのだと、せっかく働きに来てくれる従業員を途方にくれさせるような事態を賢明にも避けているわけだ。実際、Berkshireではlay-offをしないことを大事にしているそうだ。昔のDempsterの件ではBuffettは誤りを犯したと考えているらしい。

そしてこのアプローチは投資としても非常に成功する。高い利益率を維持して再投資を続けることで、長い目で見ると複利によって資本が膨れ上がっていくのである。ある時+50%で増えたと思ったら翌年から+3%しか増えなくなってしまったなどというビジネスよりも、毎年+15%がコンスタントに続き際限なく増えていくようなビジネスの方が望ましい。グロース株などと呼ばれている銘柄の一部は前者のような一発あたり市場しか取れなかったりするし、一発狙いの短期思考の人は、利益の再投資によって膨れ上がる複利を過少評価する傾向がある。アインシュタインも人間が複利の効果に気づかないことについて言及しているようだ。ぜひ後者のビジネスを探してみて欲しい。

Integrityとデータ解析

実はバリュー投資家のコミュニティでは最近、quality of investmentsが成功の鍵だと言う意見が強くなっている。財務書評から読める定量的ファンダメンタルズも大事だが(これが分かるだけでロクでもない会社をお金を放り込む愚は避けることができる)、それ以上にCEOや会社の人格・価値観こそがリターンを決めるのだという見方だ。

L.J. Rittenhouseはcandorをshareholder letterやannual reportsのテキストから分析する方法を見出してきた。良いニュースだけでなく悪いニュースも率直に伝える正直さ・自分の誤り認める態度があるとか、株主への手紙で英作文に時間をかけて丁寧に最適な単語を選ぶような経営者のいる会社は成功確率が高いのである。経済と倫理との関係を大切にしている人にとっては朗報ではないか。この世界は技術者の人にとっても面白いかもしれない。彼女らのアプローチを参考に、自然言語処理を用いて株式のリターンを予測しても良いわけだ。著者も以下の書にサインをもらった。

Investing Between the Lines: How to Make Smarter Decisions By Decoding CEO Communications

Quality of investmentsの世界には心理学者も研究フィールドを広げている。昨年のVICにはFred Kielが以下の書の紹介も含めて来ていた。Rittenhouseに興味を持たれた方はFred Kielも合わせて追いかけると良いことがあるかもしれない。

Return on Character: The Real Reason Leaders and Their Companies Win

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投稿者: rikija

機械学習・認知科学・投資アルゴリズムの研究者。作曲家 (アマチュアですが鋭意努力中) Twitter: @rikija / https://twitter.com/rikija 論文実績等は https://sites.google.com/site/rikiyatakahashi/ を参照

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